こんにちは、ベンチャー支援をしている公認会計士の岡田哲意です。
この記事では、
- 事業計画(ビジネスプラン)とは何か
- 事業計画(ビジネスプラン)作成の目的
- 事業計画(ビジネスプラン)の構成要素
- 事業計画(ビジネスプラン)の評価観点
について書いていきます。
資金調達を行う上で避けて通れない事業計画。
よくわからない、苦手意識がある方もいると思います。
非常に奥が深いものなのですが、まずは雑でも良いので一通り作ってみるのが肝心です。
ぜひこの記事で学んで、作ってみてください!
なお、ビジネスアイデアやビジネスモデルの記事も読んでいただくと、より一層理解が深まると思います。
目次
事業計画(ビジネスプラン)とは何か
事業計画(ビジネスプラン)は、その名の通り事業の達成目的、目標、達成する計画・過程を示した公式のステートメントまたはその文書計画です。
そして、特にベンチャー企業にとって重要なのは、社外とのコミュニケーション手段であるということです。
事業計画を作らずに運営されている事業も世の中に多数存在します。
その上でわざわざ事業計画を作成するのは、事業計画を使って社外とコミュニケーションを取り、事業を円滑に進めるためです。
自分だけが理解できる事業計画はベンチャー企業ではあまり意味がないため、社外の人から見ても説得力がある、わかりやすい資料となるよう気をつけましょう。
事業計画(ビジネスプラン)作成の目的
事業計画はコミュニケーション手段ですが、ベンチャー企業では主に以下3つの目的のために作られます。
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- 資金調達
- 営業・事業提携
- 採用
資金調達
まず必要になるタイミングが、投資家等からの資金調達かもしれません。
成長率が高く、利益を生む有望なビジネスであることを説明する必要があります。
営業・事業提携
最近はMorning Pitchなど、ベンチャー企業と大企業がマッチングするプレゼンイベントが増えています。
そこでは、自社のビジネスの可能性等を伝えるだけでなく、製品・技術の特徴や、大企業への提案、大企業側のメリットを表現する事業計画が必要です。
採用
採用のためにも、事業計画は必要です。
意欲ある優秀な人ほど、入社検討するベンチャー企業の成長性やインパクトを重視するもの。
優秀な人材の確保のためにも、彼らがワクワクする事業計画が必要です。
事業計画はコミュニケーション手段なので、伝える相手に応じて、しっかりアレンジしましょう。
事業計画(ビジネスプラン)の構成要素
では事業計画の書き方を見ていきましょう。
あくまでコミュニケーション手段として相手を動かせば良いので、事業計画に書き方のルールはありません。
ここからはベンチャー企業の事業計画の一例と捉えてください。
現在はPowerPointやKeynote等のスライド形式で作成することが多いです。
スライドの各ページには、スライドのタイトルとともに、スライドで最も伝えたいメッセージを一文で表現した「キーメッセージ」を書くのがポイントです。
それでは、ここからは各スライドにどのようなことを書けば良いのか、世界を代表するベンチャーキャピタルであるSequoia Capitalによる事業計画フォーマットを参考に解説していきます。
なおもちろん、ここに書いてある内容をすべて満たすからと言って必ず資金調達ができるわけではありませんし、VCによってはこれ以外の要素を重視する場合もあることをご了承ください。
会社の目的
まずはあなたの会社の目的を、簡潔な一文で表現してください。
ただ簡潔にするだけでなく、あなたの想いや事業の独自性、魅力を伝える必要があるため、とても難しいと思います。
「ビジネスアイデアの作り方」の記事も参考にして、一文で表現できるようコンセプトを削ぎ落としましょう。
課題
あなたの顧客の抱える課題、苦痛に感じていることを書いてください。
さらに、それを顧客の声で裏付けたり、現状のソリューションの何が欠点なのか、を記載します。
この課題が深く、既存の手段では解決できていないことが重要です。
ソリューション
顧客の課題を、どのように解決するのかを書きます。
その解決策がユニークで優位性があることが重要です。
さらに、それが継続し、どのように進化していくのかも記載します。
もしソリューションを使った実績・実例があるなら、記載します。
なぜ今か?
最高の会社は、なぜ今このビジネスに取り組むのか明確な答えを持ってることが多いです。
あなたが取り組む製品カテゴリーの歴史を振り返り、なぜこれまで同様のソリューションが生まれなかったのか、なぜ今それが可能になったのかを書きましょう。
市場ポテンシャル
潜在的な市場規模や市場年間成長率を書きましょう。
TAM/SAM/SOMの3種類を書くのが一般的です。
TAM
Total Addressable Marketの略で、市場全体を指します。
官公庁や矢野経済研究所等のシンクタンクのデータを使い、トップダウンで算定することが多いです。
SAM
SAM(Serviceable Available Market)の略で、自社の販売チャネルでリーチ可能な最大市場規模を指します。
基本的には、自社の製品・サービスの「顧客あたり年間売上単価✖︎世の中に存在する総顧客数」で、ボトムアップで計算することが多いです。
SOM
SOM(Serviceable Obtainable Market)の略で、購入見込みが一番高い目先の重点取り組み市場を指します。
SAMのうち、特に初期に重点的にターゲットとする顧客セグメントを切り出して計算します。
実例
なかなかイメージが沸かないと思いますので、実際にあなたが主に大企業向けの名刺管理サービス(月額課金)を手がける場合のTAM/SAM/SOMを考えてみます。
TAMは、名刺管理の目的が主に顧客データや営業履歴の管理なら、CRM(顧客管理システム)の国内市場規模と考えれば良いでしょう。
IDCによれば、1,742億900万円とのことです。
TAMはあまり時間をかけず、ざっくり計算すれば良いでしょう。
SAMは、そのサービスの1社あたり月額課金単価に12をかけて1社あたりの年間売上高を計算し、それに日本の大企業数をかけて計算します。
一般的には、TAMの方がSAMよりだいぶ大きくなるはずです。
SOMは、SAMのうち、特に初期に重点的に狙う市場を切り出します。
例えば、初期は名刺交換数の多い商社や銀行等を狙うのであれば、1社あたり年間売上高に、日本国内の大企業のなかで商社や銀行に該当する会社の数をかけます。
競合と代替品
直接の競合と間接的な競合を記載します。
直接の競合は、顧客ニーズをあなたと同じ手段で解決している類似企業を指します。
間接的な競合は、同じ顧客ニーズを異なる手段で解決している企業を指します。
それらとは何が違い、どう勝つかを記載します。
将来競合として参入しうる企業を想定して、参入障壁を記載するのも有効でしょう。
ビジネスモデル
あなたの会社がどのように儲け、成長するかを記載します。
どのように収益を獲得するのか、ソリューションの価格はどの程度か、(もしあれば)顧客あたりの平均売上高や生涯価値、どのように営業・販売・流通させるのか、顧客や見込み客は誰か、といったことを記載します。
チーム
創業者や経営者、取締役やアドバイザーを記載します。
なぜあなたがこの事業をやるのか、なぜこのチームだからこそ成功させられるのか、過去の経験や実績を記載してください。
財務情報・アクションプラン
もしあれば、損益計算書や貸借対照表やキャッシュフロー計算書、資本政策表や資金調達履歴を記載します。
さらに今後事業をどのように進めていくか、ソリューション開発、営業マーケティング、採用等の計画を記載します。
ビジョン
もし順調にいった場合、5年10年、あるいはもっと将来、どのような会社を作りたいか、どのようなインパクトを社会にもたらしたいかを記載します。
事業計画(ビジネスプラン)の評価観点
上記のように事業計画を作成したら、VCはどのような観点で事業計画を評価するのでしょうか。
これらの観点はVCによって様々ですが、シリコンバレーのトップクラスVC Andreessen HorowitzのScott Kuporが書いた「SECRETS OF SAND HILL ROAD」を参考に記載します。
市場規模
市場規模は非常に重要です。
どんなに優秀な創業者でも、狙う市場規模が小さすぎるとVCは投資できません。
(詳細は「ベンチャーキャピタル(VC)とは」の記事もご覧ください)
チーム
創業者であるあなたや経営チームが、どれだけ顧客の課題や業界の歴史・動向に詳しいかが非常に重要です。
研究者・技術者の皆さんは、特に自社の関連技術に詳しいだけではなく、顧客や参入しようとしている業界のプロフェッショナルになる必要があります。
VCは利益相反を避けるため、原則似たビジネスに同時に投資できません。
その場合、どこに投資するかの決め手は人・チームになります。
特に直接の競合が多いビジネスほど、この要素が重要でしょう。
感覚的には「市場が最重要」派と「チームが最重要」派とで、VCは二分されています。
製品
本当に顧客がお金を喜んで払う、本質的な課題を解決する製品かも非常に重要です。
他の会社がアプローチしていない、あなただけが知っている課題を解決することや、ユニークで革新的な製品・サービスであることも重要ですが、最も重要なのは顧客がお金を払ってくれるかです。
市場進出
製品・サービスをどのように顧客に知ってもらい、使ってもらい、販売するかのGo To Market戦略も重要です。
研究者・技術者の方の起業の場合、商社や代理店を使うことも多いかもしれません。
その場合も、どのように市場に代理店網を張り巡らせるのか、彼らへのアプローチやインセンティブ付け、契約形態はどうするかなど、できる限りイメージしてみましょう。
次の資金調達ラウンドを計画する
次の資金調達時に投資家がより高い評価額をつけるため必要なこと(マイルストーン)を洗い出し、それらをどのように達成するかを記載しましょう。
一回の資金調達だけで上場やM&Aができるベンチャー企業は稀です。
そのため、VCとしては企業が生き残れるかを図るためにも非常に重要な要素となります。
技術や製品の開発だけではなく、マーケティング活動による売上増や、売上増による顧客獲得単価の増加をどのように防ぐか等もマイルストーンに含まれます。
まとめ
ここまで事業計画について書きましたが、少しイメージが湧きましたでしょうか?
もし身近にスタートアップ起業家がいれば、事業計画を見せてもらったり、相談に乗ってもらうのもいいかもしれません。
皆さんの事業計画作成が、この記事で少しでもスムーズになれば幸いです。