こんにちは、ベンチャー支援をしている公認会計士の岡田です。
この記事では、
- 会社の種類
- 会社設立の流れとポイント
- 会社設立にかかる費用
- 省力化の選択肢
について書いていきます。
なお、この記事を書くにあたってはドリームゲートの「マニュアル – 会社設立」とCoral Capitalの「スタートアップ向け法人設立ベストプラクティス」を大いに参考にさせていただいております。
また2020年8月18日時点での会社法に基づいた記載となります。
目次
会社の種類
まず一言で会社といっても、日本では4種類の会社があります。
- 株式会社
- 合名会社
- 合資会社
- 合同会社
です。
(なお現行の会社法では、有限会社を新設することはできません。)
この4種類はざっくり言うと、株式会社とそれ以外に分かれます。
株式会社以外の3種類は持分会社といい、組織の意思決定等のルールを柔軟に決定できる・設立費用が比較的安い等のメリットもありますが、株式が発行できないというデメリットが存在します。
もし皆さんが将来的に外部のVC等から資金調達をする可能性が少しでもあるなら、株式会社を設立するのが無難でしょう。
この記事では、この後株式会社の設立について解説します。
会社設立の流れとポイント
株式会社の設立の流れは、会社法に定められています。
発起人の決定
まず1人以上の「発起人」を決定します。
この「発起人」が会社設立プロセス全体を実施することになります。
基本的には、代表取締役になる予定のあなた1人が発起人になればOKでしょう。
会社の基本事項の決定
次に以下のような、会社の基本事項を決めておきます。
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商号(社名)
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目的(事業の内容)
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本店所在地
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会社設立に際しての出資金を何円にするか
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会社が発行する株式の総数
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会社設立に際して発行する株式の総数
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会社の株式に譲渡制限を設けるか
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会社が公告をする方法
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会計年度は何月から何月までにするか
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取締役には誰が就任するのか
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取締役の報酬はどうするか
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取締役の任期を何年にするか
特に以下のポイントは、なかなかイメージがわきづらいところだと思うので解説していきます。
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会社設立に際しての出資金、会社が発行する株式の総数と、会社の設立に際して発行する株式の総数
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会社の株式に譲渡制限を設けるか
-
会社が公告をする方法
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会計年度は何月から何月までにするか
-
取締役の任期を何年にするか
会社設立に際しての出資金、会社が発行する株式の総数と、会社の設立 に際して発行する株式の総数
現行の会社法では、会社の資本金は1円以上なら何円でもOKです。
ただ手続を簡便にするため、最初の資金調達までに必要な金額を概算して、出資金としておけば良いかと思います。
なお出資金の半分は資本準備金とでき、資本金を低く抑えた方が税法上有利なので、半額を資本金・半額を資本準備金とするのが一般的です。
また会社が発行する株式の総数と、会社の設立 に際して発行する株式の総数についても、基本的に自由に設定できます。
ただ、この数を少なく設定しすぎると、将来株式発行による資金調達をする際に、株式分割等の手続きが必要になり、非常に面倒です。
一方、多すぎると将来上場する際に、1株あたりの株価を株式分割で柔軟に調整する、という慣例がしづらくなります。
そのため、会社が発行する株式の総数は1000万-1億くらい、会社の設立 に際して発行する株式の総数は1万-100万くらいが良いのではと言われています。
意外と多いですよね。
会社の株式に譲渡制限を設けるか
会社の株式を譲渡する際に、会社の承認を必要とするか検討します。
基本的には、株主が取締役等の知らないところで株式を売買して変な人が入ってくるのを防ぐためにも、会社の承認を必要とした方が良いでしょう。
また譲渡に制限を設けることで、会社法上「非公開会社」という分類になり、会社の機関設計がフレキシブルになるという利点もあります。
会社が公告をする方法
会社が自社の経営状態を公告(日本全体に公開)する方法を検討します。
会社法では以下の3種類が認められています。
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- 官報に掲載する方法
- 日刊新聞紙に掲載する方法
- 電子公告
日刊新聞紙に掲載するのは起業したてでは現実的でないため、他の2種類が選択肢になると思います。
電子公告は、自社ウェブサイトに経営状態を掲載すればOKなため、掲載費用7.5万円がかかる官報より安価ですが、過去5年分の貸借対照表の全項目を掲載する必要があります。
官報であれば、費用はかかりますが、1年分の貸借対照表の抜粋でOKです。
過去5年分の貸借対照表を全項目掲載すると、経営状態が競合等にも筒抜けになるため、最初は官報が一般的なようです。
会計年度は何月から何月までにするか
何月末決算にするかも自由に決められます。
一般的には、消費税が発生(基本的には3会計年度目から発生)するのを少しでも遅らせる節税のため、設立月の前月を年度末とすることが多いです。
取締役の任期を何年にするか
非公開会社の場合、取締役の任期は10年までの期間で自由に決定できます。
取締役を再任するためには、登記費用約5万円がかかりますので、費用削減のためには任期を長くした方が効率的です。
ただ会社運営に必要な能力等は、急成長する企業の場合は次々変わるもの。
1-2年としておき、万一能力がマッチしなくなった場合に備えるのが一般的なようです。
法人印鑑の作成
次に商号を入れた、法人印鑑を作っておきます。
これまで会社法では、法人印鑑を最低1種類は作成し届け出ることが義務付けられていたのですが、2019年の改正で印鑑の届出自体が任意となりました。
ただ契約書や銀行取引のためにも印鑑が必要な慣例は残っており、実印(会社法における届出印鑑)・銀行印(銀行取引に使う印鑑)・角印(請求書等の軽めの取引に使う印鑑)を準備しておくと良いでしょう。
実印だけでも法律上は良いのですが、実印は非常に強い効力があるため、従業員等が悪用できないよう厳重保管しておき、日常業務は銀行印・角印を使うのが一般的です。
この印鑑の必要性は、今後変わってくるかもしれませんね。
印鑑証明の取得
個人としての印鑑証明も取得しておきましょう。
印鑑証明の提出先と必要数は以下の通りです。
- 公証役場…全発起人各人1通
- 登記所…代表取締役1通
- 金融機関…発起人代表1通
発起人が代表取締役のあなた1人の場合、あなたの印鑑証明を3通用意しておけばOKです。
定款の作成
あらかじめ決定しておいた基本事項に基づき、定款を作成します。
ドリームゲートの定款記載例を参考にすると良いでしょう。
なお、以下の絶対的記載事項は、記載漏れがあると定款全体が無効になるため、特に注意しましょう。
- 目的
- 商号
- 本店の所在地
- 設立に際して出資される財産の価格またはその最低額
- 発起人の氏名または名称および住所
- 発行可能株式総数
公証人による定款の認証
定款を作成したら、本店と同じ都道府県の公証役場に実際に足を運び、収入印紙代40,000円と手数料50,000円、諸経費2,000円の実費を支払います。
なお、作成した定款のファイルに電子署名して法務省のオンラインシステムで電子申請し、収入印紙代を節約することができる「電子公証制度」というものもあります。
出資金の払い込み
その後、発起人(つまり、あなた)は予め決めておいた出資金を、会社が指定した委託金融機関に振り込みます。
払い込みが完了すると、金融機関から残高証明書を入手できます。
取締役会の開催
取締役会を開催します。
代表取締役の選出を行い、本店の正確な所在地を決定、最後に取締役各自の報酬を決定します。
必ず取締役会議事録を残しましょう。
なお、取締役が1人の場合は開催不要です。
設立登記申請書の作成・登記申請
次に、設立登記申請書という書式を作成し、本店所在地の所管法務局の登記所に提出します。
その際、多数の必要書類を一緒にとじこむ必要があります。
不安な場合は、事前に法務局の担当者に相談すれば、乗ってくれます。
なおこの際、登録免許税として最低15万円がかかります。
会社設立の完了
修正の必要がなく、登記所に受理されれば、やっと会社設立です。
その後、税務署等に必要な届出を完了する必要があります。
ドリームゲートの届出書類一覧に網羅されていますが、どんな会社でも必要なのは以下の役所への届出です。
- 税務署
- 都道府県税事務所
- 市町村役場
- 年金事務所
また法律上必須ではありませんが、銀行口座の開設も必要となります。
人の紹介だと開設できる可能性が高まるようです。
会社設立にかかる費用
会社設立には、たくさんの労力が必要なことがお分かりいただけたかと思います。
それでは、お金はどれくらいかかるのでしょうか。
全部自分でやった場合、ざっくり27-28万円といわれています。

出所:ドリームゲート
なお、電子定款にした場合はマイナス4万円となり、出資金が多い場合は登録免許税等がもっと必要になります。
結構、かかりますね。
省力化の選択肢
これらの手続はもちろん自分ですべて実施できるのですが、時間が割けない場合等は司法書士のような専門家に依頼することもあります。
また最近は会社設立freeeという無料クラウドソフトウェアを使うことも多いです。
司法書士
司法書士に依頼すると、上記の手続における書類作成・届出等をほぼ実施してもらえます。
以下のように多くの業務を省略することができます。
- 事務所に設立したい会社の基本情報を提出する
- 待つ(事務所が書類作成をする)
- 書類の確認・押印をして登記費用を預ける
- 待つ(事務所が役場にて定款認証をする)
- 資本金を振り込む
- 待つ(事務所が登記を申請する)
- 設立登記完了
なお、費用としては10-20万円かかるようです。
会社設立freee
また最近では、上場企業であり会計freeeで有名なfreee株式会社が提供する、「会社設立freee」という無料サービスを使って会社設立される方も増えています。
実際に使って設立された方にお聞きすると、定款や設立登記申請書等の書類作成が自動化されるほか、公証役場の訪問等、自分で実施すべきことも非常にわかりやすくガイドしてくれるとのことです。
原則無料で使えますので、自分1人が代表取締役として会社を設立する場合など、シンプルなスキームで会社を立ち上げる際は、使ってみても良いでしょう。
(無料の理由は、起業後に会計freee等の会計サービスを契約してくれれば、freee株式会社としては十分儲かるからだと思われます)
まとめ
この記事では、意外と知られていない会社設立の手続きについて書きました。
会社設立の面倒くささが少しでも解消されましたら、幸いです。