こんにちは、ベンチャー支援をしている公認会計士の岡田 哲意です。
この記事では、
起業のメリット・デメリット、
決断のコツ、
周囲の応援の獲得法、
について書いていきます。
起業とは何か、起業にはどんな種類があるのか、という基礎情報は「起業とは何か」という記事にまとめていますので、あわせて参考にしてください。
目次
起業のメリット
経済的成功の可能性
起業のメリットとして誰もが思い浮かぶのが、経済的成功だと思います。
Forbesによる日本長者番付でTOP3はファーストリテイリングの柳井さん、ソフトバンクの孫さん、キーエンスの滝崎さん、世界長者番付でも、トップにはAmazonのジェフ・ベゾスやMicrosoftのビル・ゲイツがランクイン。
成功すれば、日本一、いや世界一の経済的成功を目指せるのは夢がありますね。
彼らは自ら起業した会社からたくさん給料をもらっているから、お金持ちなのでしょうか。
実はAmazonのジェフ・ベゾスは20年間同じで、給料は約900万円とのことです。
確かにもらってはいますが、900万円をいくら貯金しても、世界一のお金持ちになれるとは思えませんよね。
起業家がお金持ちになる仕組みですが、基本的には「自分が起業した会社の株価が非常に上がっている」から、お金持ちになっています。
例えば、皆さんが頑張って貯金をして、資本金100万円で会社を設立するとします。
当然、最初はその会社の株価の総額は100万円です。
ただその後、どんどん売上を伸ばして、利益を出せるようになって、東証マザーズのような証券市場に上場できたとしましょう。
その際、あなたの会社の株を買いたい人が多く、株価が高騰、「株価×発行済株式総数」が1000億円になったとしましょう。
すると、上場前に株を売って出資を募ることをしなければ、基本的にあなたの株の価値は100万円から1000億円になっています。
もし上場前にベンチャーキャピタル(VC)等の投資家から出資を募って、あなたの株の保有割合が50%になっていたとしても、500億円になります。
とてもお金持ちですね。
ジェフ・ベゾスは上場後もさらに努力して、1997年に上場してから2020年8月12日現在まで、なんと株価を1800倍にしています!

出所:Google
ここまでいくと、1997年にAmazonの株を10万円で買った人が億万長者になってしまうレベルなのですが…
なお起業家が現金が欲しい場合は、自社株を販売します。
ただ大株主が1%以上株を売ったりした場合は、「変更報告書」というのを提出して、世界に公表しなければなりません。
起業家が株を売りすぎると「経営がヤバいんじゃないか」「起業家しか知らない裏があるんじゃないか」と思われて株価が暴落したりすることもあるので、好き勝手売れるわけではないのにご注意ください。
何をやるか(What)の自由
経済的成功のほかに研究者・技術者の皆さんが特に重視するのが、「自由」かと思います。
起業家は誰かに雇われているわけではないので、サラリーマン等と比べると圧倒的に自由です。
特にあなたが大企業の研究者・技術者で「この研究成果や技術を事業化して、なんとか世の中に広めたい」「でも上司に提案したら、難しいと言われてしまった」という場合は、それを自分で自由に進めてみたいと思うこともあるかと思います。
起業家は、事業として「何をやるか(What)」が圧倒的に自由で、正直「何もやらなくてもいい」のです。
ただ、これはベンチャーキャピタル(VC)等の投資を受けていないなど、自分以外に関係者(特に株主)が少ない場合です。
起業家は多くの場合、まず自分自身が代表取締役社長になることが多いと思いますが、会社法上は代表取締役は株主に対する「善管注意義務」、簡単に言うと「株主の利益になるようベストを尽くして会社を経営する義務」を負っています。
そのため、自分以外に株主がいる場合は特に、ちゃんと利益を出すための努力をする必要があります。
雇われの身に比べれば圧倒的に自由とはいえ、利益を出せるようベストを尽くさなければならない、好きな研究開発だけやっていてもダメ、という点をご理解いただければと思います。
どのように働くか(How)の自由
起業家には就業規則等もありませんので、どのように働くか(How)も自由です。
ベンチャー社長というと、TシャツGパンでとても自由そうなイメージがある方もいるかと思います。
服装も自由なら、勤務時間や勤務場所も自由です。
ただこれも当然ですが、外部から株主がいる場合は「利益という形で結果を出すためにベストを尽くしている」という条件付きになります。
これは自由な反面、正解がないので非常に難しいです。
医療系など、堅い業界で起業した場合、取引先が皆スーツや白衣だったりしますので、企業の研究所時代よりもスーツで働くことが増えたという人もいます。
起業のデメリット
経済的リスク
起業のデメリットとして、真っ先に思い浮かぶのが「失敗したら借金まみれになるのではないか」などの経済的リスクだと思います。
ドラマだと事業に失敗した人が最悪、死を選ぶケースも描かれており、非常に怖いですよね。
このようなリスクは、資金調達の手段によって、ある程度はコントロールすることができます。
例えば資金調達を投資家からの出資のみで行っている場合、通常の株式発行であれば、例え企業が倒産しても起業家本人がお金を返す必要はありません。
出資は借入と違って借金ではないためです。
ただ代表取締役にも関わらず善管注意義務を果たしていないと見なされれば株主から訴訟を起こされることもあります。
また、今は減ったと思いますが、投資契約書によっては「期限までに上場できない場合は代表取締役が株式を買い取る」と書いてあるケースもあるようです。
資金調達として借入をしている場合も、その借入が無担保・無保証契約の場合は、法律上は代表取締役等個人の借金になることは原則ありません。
ただこれも勿論借入契約書によってケースバイケースですし、変なところから借りてしまうと怖い目にあうこともあります。
ちゃんと法律や契約等を理解して、自分がどんな義務やリスクを抱えているかを理解すること、さらに資金調達元についてはしっかり信頼できるところ(少なくとも違法行為をしないところ)のみを選ぶことが重要です。
機会費用
経済的リスクの他に、「機会費用」についても考える必要があります。
皆さんが大学の研究者の場合、または大企業のサラリーマンの場合、起業する場合は今の仕事を辞めざるを得ない場合もあると思います。
たとえ最初は辞めずにスタートしたとしても、「起業する」ということは「他のことをする時間を減らす」ことになり、その分安定した収入がなくなったり、キャリアを形成する時間がなくなります。
特にビジネスにかける時間が増えますので、純粋な研究・開発にかけられる時間が少なくなり、純粋な研究者・技術者としてのキャリアを追求するのは一時中断となるかもしれません。
ただ最近は、ビジネス系キャリアでは起業経験がプラスになることも多いです。
大企業でも起業経験者をイノベーション・新規事業担当者として採用しており、私が勤務しているコンサルティングファームでも起業経験者を重宝しています。
日本全体の人材流動性は増加傾向ですし、企業経営におけるイノベーションの重要性は増しているので、起業経験を活かせる仕事は増えていると思います。
ストレス・過労
起業家には就業規則がありませんので、何日・何時間働いても自由です。
逆に言うと、結果を出すために、非常に長時間働くことも可能ということです。
与信がなくなりローンやクレジットカードが組めない、取引先から不義理をされる、信頼していた取締役や従業員に裏切られる等、大きな組織ではなかなか経験しない理不尽なストレスもあります。
2016年のカリフォルニア大学の調査によれば、起業家の49%がうつ病等の精神疾患を報告しているそうです。
成功すれば非常に大きなリターンが獲得できる反面、多くのプレッシャーやストレスにさらされながら長時間働かなくてはならない局面もあります。
善管注意義務によって、真面目すぎる起業家は自分を追い込みすぎてしまう面もあります。
善管注意義務は企業を継続的に成功させることを求めているので、人間として必要なある程度の休息や健康的な生活をせず、身体やメンタルを壊してしまったら本末転倒です。
個人的には、起業家の皆さんには健全な人間関係や健康的な運動・休息・食生活等をキープいただきたいと思っています。
なぜなら企業経営というのは、基本的に「ゴーイング・コンサーン=永続企業」を前提としており、経営者の仕事は上場して終わりではないからです。